今度こそ、練愛

それから二年後、去年の私の誕生日。
二十七歳になったお祝いにと彼は、なかなか予約の取れない地元のイタリアンレストランを予約してくれた。



普段飲むといえばビールかチューハイばかりなのに、あまり飲まないワインを頼んだのは店の雰囲気に飲まれてしまったせいだろうか。気取ってみたけど、さほどお酒に強くない私たちはすぐにふたり揃っていい気分になって。



酔っ払った彼は当然のように私の部屋へとなだれ込み、『有希、結婚しよう』と蕩け合いながら言った。



うん、たぶん勢いだったんだろうなあ……、と今さら思う。



あんなにも優しかった彼の言葉はよほど触れられたくなかったのか、一目散に逃げるように消えていった。



それ以来、彼の口から『結婚』という言葉が発せられることはない。



私から彼に真意を確かめる勇気はない。
だけど、彼は絶対に忘れているだろう。



忘れているからこそ、私以外の女性と一緒に居たんだ。



ついさっき見てしまった光景が蘇ってきて、無性に腹が立ってくる。










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