今度こそ、練愛
「ああ、悔しい……」
溜め息とともに思わず声に出てしまった言葉を、スマホの向こう側で聞いてた母がすかさず拾い上げる。
「何が悔しいの?」
問い返されても正直に答えられようか、いやできまい。わざわざ拾い上げなくてもいいのに、さらっと流してくれたらいいのに。
「ううん、何にもない、仕事のこと」
「そう、ところで……いつになったら彼氏に会わせてくれるの?」
またいつもの、母がしつこいほど口にする台詞。上手くかわしたつもりなのに、逆に余計な事を言わせてしまった。
『二十九歳までに結婚して、三十歳までに子供を産みなさい』
私の二十七歳の誕生日の朝、母が言った。
もしできなければ田舎に帰って見合いをすること、と付け加えて。田舎にいる歳の近い従姉妹たちが次々と結婚していく中、母なりに焦りを感じたらしい。
この言葉を聞いた時は重荷に感じたけれど、その日の夜には昭仁から『結婚しよう』と言われたタイミングの良さに運命すら感じ始めていた。
「はいはい、そのうちね、今は仕事が忙しいから落ち着いたら」
「また……、去年からずっと言ってるけど本当はどうなの? 彼氏なんて居ないんじゃないの? 帰りたくないから嘘ついてるの?」
「違うよ、本当に今は忙しいの」
言い切ったけれど、もやもやしてる。