今度こそ、練愛
やれやれ、やっとひと息つくことができるかな……と店内を見渡す。
ちょうど肩の力が抜けたところに、ぬっと視界の端から影が現れた。
足音もなく現れたのは岩倉君。
「ちょっと来て」
無表情で呼びかけて、カウンターの裏側へと誘う。
いったい、何の御用でしょう?
嫌な予感いっぱいで後を追ったら、岩倉君が冷蔵庫の中を指し示した。
「ほら、これ見て」
ピンク色の花を指差した岩倉君は不機嫌そうな顔で私を見据える。どんな答えを返したらいいのかと悩み始める私を見て、今度は大きな溜め息。
「あのさ、花の名前知らないの? この花、さっきのお客さんが言ってたトルコキキョウ。ちゃんとピンクがあったんだけど?」
岩倉君の歯切れの良い言葉が私を突き刺すように責める。焦りとともに背筋を走るひやりとした感覚に、髪の毛が逆立ちそうになる。
「すみません、何という名前かわからなくて……、似たような形の花を探したんですけど見つからなくて」
私の精一杯の言い訳。
だって花の名前がわからなかったのは本当のことだから、それ以上弁解のしようがない。
それにもうお客さんは他の花で満足してくれたのだから、今更蒸し返さなくてもいいじゃない。