今度こそ、練愛
そう思ったのが顔に表れてしまったのかもしれない。岩倉君の顔が急に険しくなった。
「こんな仕事は初めて? 花の仕事したことある?」
「初めてです、接客も花のこともよく知らないから、ごめんなさい」
正直に答えて深く頭を下げた。
ここはひとまず謝るしかない。
彼の機嫌を損ねたら、これからここで働くのに支障が出るかもしれない。こんなことで仲が悪くなって、今後何にも教えてくれなくなったら困る。
「だったら、どうして覚えないの? お客さんがいない時や手が空いてる時に、少しでも見て覚えたらいいだろ? それでもわからなかったら聞いたら済むのに……」
まくし立てるように言い放って、岩倉君は唇を噛んだ。
彼の言うことはもっともだ。
お客さんの波が途絶えている間、私は高杉さんや仲岡さんに言われるまま仕事を手伝っていたけれど自分から花の名前を覚えようとはしていなかった。ただ仕事と段取りばかりを優先して覚えようとしていた。
ここの仕事で大切なことは、そんなことじゃない。
「どうしたの? 何かあった?」
高杉さんがひょこっと顔を出した。ようやく接客を終えたのだろうか、高杉さんの顔から焦りの色はすっかり消えている。
カウンターの向こうから、仲岡さんのお客さんを見送る声も聴こえてきた。