今度こそ、練愛

運転席に見たことある男性の横顔。
仲岡さんがにこやかに会釈すると、男性は右手をかざした。



下ろした手の向こうに、ちらりと見えた男性の顔は間違いなく川畑さん。ゆっくりと走り去っていく車の後ろ姿も、やっぱり川畑さんの車だ。



「さっきの人は? 仲岡さんの知り合いの方ですか?」

「うん、店のオーナーの山中(やまなか)さん。あれ? 有希ちゃん、まだ会ってなかったの?」

「え? はい……、山中さんって言うんですか?」



だったら、人違いかもしれない。
それにしてはよく似ていた。単なる人違いとは思えないほど、横顔も車もそっくり。
もう車は見えない。



「まだ若いでしょう? 私より若かったと思うよ、他のグループ会社の仕事が忙しいから、たまにしか店には来ないんだけどね」

「花屋さんの他にもグループ会社があるんですか?」

「うん、隣のジュエリーショップも系列店だよ、他にはカフェもオープン予定だって、それより早く戻ろう」



何かを思い出したように、仲岡さんが私の手を引いて駆け出す。急に引っ張られた体がついて来なくて、足がもつれそうになる。



「え? どうしたんですか?」

「オーナーが来たということはお楽しみがあるのよ」



嬉しそうに声を弾ませる仲岡さんに引っ張られるまま、店内へと飛び込んだ。



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