今度こそ、練愛

休憩を終えて店内へ戻ると、高杉さんは接客中。カウンターでは岩倉君が大ぶりのアレンジメントを作っている。



「お先に頂いたよ、岩倉君も休憩しておいでよ」

「はい、これができたら俺も休憩します」



仲岡さんの呼び掛けに岩倉君が振り向いた。
にこっと笑うから、きっと今は機嫌がいいんだと思える。たぶん、きっと、そうに違いないと思い込んだ。



「山中さんから頂いたシュークリーム、美味しかったですよ」



思い込みから口に出てしまった言葉に、岩倉君の表情から一瞬で笑みが消える。不機嫌な顔で、


「俺はいらない」



放り出すように言って、そっぽを向いてしまう。
私は何か余計なことを言ったのだろうか。



「じゃあ、キリがいいところで休憩行っておいでよ」



助け舟を出してくれた仲岡さんが、そっと私の手を引いて再び事務所へ。
怒られるのかもしれないと覚悟していたら、仲岡さんが声を潜めて。



「岩倉君、甘いものが苦手らしいの。山中さんの差し入れとか食べたことないから気をつけてね」



と、教えてくれた。


なんだ、そういうこと。
不機嫌な理由がわかって少し安心。



私は余計なことばかりして、岩倉君に嫌われる要素だらけなのかもしれない。


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