鬼部長と偽装恋愛はじめました
でも部長は、お弁当を見つめるだけで手を出そうとしない。

「別に毒なんて入ってないですよ?」

サラッとつまんでくれたらいいのに、なにを考えているんだろう。

たしかに、突然お弁当を差し出されても困るだろうけど、こっちは引っ込みがつかなくなってるのだから、さっさと食べてほしい。

すると、部長は珍しく苦笑いをして言った。

「箸、無いんだけど。さすがに、本城の弁当に手を入れるわけにはいかないだろ?」

「あっ、すみません……」

だから困ってたんだ……。

それに関しては私が反省で、煮物を手で掴めと言う方が配慮が足りなかった。

でも箸なんて、私が使ってるものしかないから困ったな。

だけど食べろと言ったのは私だし、ここはもうヤケクソだ。

「部長、『あーん』してください」

「えっ⁉︎」

完全に引いたらしい部長は、少し体を反らしている。

その部長の態度が、ますます私の意固地な性格に火をつけた。

こっちだって恥ずかしいけど、勇気を振り絞っているのよ。

「箸、これしかないんです。ほら、人参ですよ。あーんして!」

私の迫力に気圧されたのか、部長はおとなしく口を開けた。

変にドキドキしながら、私は彼の口に人参を運ぶ。

なんで手が震えているんだろう。

人参を口に入れた部長が、照れ臭そうに言った。

「かなり美味しかったよ。ありがとう。でも、自分で食べれたと思う」
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