鬼部長と偽装恋愛はじめました
「え……?」

その的確なツッコミを理解するまで数十秒。

ようやく分かった私は、顔が赤くなっていった。

まさに部長の言うとおりで、別に『あーん』なんてしなくても、箸を渡せば良かったんだ。

それに、こんなことを今まで誰にもしたことがないのに、“初めて”をよりによって部長に捧げるなんて……。

さらに同じ箸を使うんだから、間接キスにもなるし……。

心の中で泣きながら、私は精一杯の強がりをみせた。

「別に食べ方なんて、どうでもいいじゃないですか。私は気にしませんから」

可愛げのないことを言った私を、部長は冷ややかな目で見ている。

そして、思いきり嫌みたらしく言ってきた。

「どうも、ごちそうさま」

そして部長は私に背中を向け、雑誌を読み始めた。

こんな態度を取られるのに、部長が私を好きなわけがない。

私はその背中に向けて、思い切り舌を出してみせた。
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