四百年の恋
***


 翌日。


 花見の宴は無事終了、泊り込みで後始末を終えた姫の叔父がようやく帰宅した。


 「姫、お前は冬悟さまと何かあったのか?」


 帰るなり叔父は、慌てた表情で姫に尋ねた。


 「冬悟さま? 福山家の末の弟君ですか? 面識ないのですが」


 「昨日の花見の宴の際、接待役の私を呼びとめ、あの姫は誰かとお尋ねになられた。その指の先には、お前がいた」


 「なぜ私のことが、話題になったのでしょうか?」


 「分からぬ。まさか姫、冬悟さまに何か失礼なことをしたわけではあるまいな?」


 「と、とんでもない! それ以前に全く面識がないお方なのですから・・・」


 姫のお転婆ぶりを知っている叔父は、姫が何か冬悟さまに粗相をしたのではないかと危惧した。


 何か怒らせるような真似をしたのではないかと。


 ところが。


 「大変です、お城から急ぎのお届けものが!」


 その日の昼過ぎ、姫は叔父夫婦に呼び出された。


 贈り物が届き、開けてみると、それは姫が持っているどれよりも美しい着物だった。
  

 送り主は……福山冬悟。


 「なぜ……」


 姫は滑らかな着物の生地に触れながら、ただただ戸惑っていた。


 「姫。よもや冬悟さまに、見初められたのでは?」


 「まさか。第一、お会いしたこともないのに」


 ……一つだけ、思い当たるとすれば。


 (おだんごをつまみ食いしているのを見つけられた、あの貴公子。あの人しか考えられない。あの方が福山冬悟さま? でもあれだけのことで、どうしてこんな……?)


 事情が飲み込めないので、姫は叔母夫婦の勧めで、向こうの出方を待つことにした。


 あの貴公子との再会の日が近いような気がして、姫は胸をときめかせていた。
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