四百年の恋
***


 それから数日間。


 姫の滞在している叔父夫妻の屋敷に、次から次へと贈り物が届けられた。


 福山冬悟の家の者から。


 「本当に、どうしたことでしょうか」


 叔母も驚くのみだった。


 「間違いない。姫は冬悟さまのお目に留まったのだ」


 叔父は決め付けているけれど。


 「私、こんなものいただけません」


 贈答品が山積みされた部屋の前で、姫は叔父夫婦に告げた。


 「何を言う。冬悟さまからの贈り物だ。謹んで頂戴しなくては」


 「ですが、いただく道理がありません」


 「もう少し待つのだ。きっと何らかのお達しが、向こうからあるはず」


 ……叔父の言葉通り。


 程なくして福山冬悟から姫の元へ、茶会への誘いが届けられた。


 「ここが、冬悟さまの屋敷……」


 姫は招待状を手に、福山冬悟の屋敷の正門前で輿から降りた。


 福山城の離れというべき場所に、冬悟の屋敷は横たわっていた。


 現当主・福山冬雅の異母弟。


 (先代さまのご側室との間の御子ではあるけれど、その才覚を見込まれて、冬雅さまの養子となられた上で次期当主に……との声もあるほど)


 そして容貌は、城の女たちの目を釘付けにするほどだという。


 ……姫の知りうる情報は、この程度。


 (それにしてもこんな雲の上の人が、どうして私などに)


 それ以前に姫は、福山冬悟なる人物の顔をまだ確定できていなかった。


 ただ。


 桜が満開の夜に出会った、「月世界の使者」と名乗った貴公子。


 あの貴公子が福山冬悟としか思えなかった。
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