四百年の恋
 それから姫、そして同行した叔父夫婦は茶室へと通された。


 まだ福山冬悟はいなかった。


 その後もなかなか現れず、しばらく待たされ、姫が足がしびれてきて困り始めた頃。


 廊下の向こうから、人の気配が。


 間もなく足音が聞こえてきた。


 平伏して主の到着を待つ。


 が。


 代わりに現れたのは家の者で、冬悟さまが庭で待っているとの伝言を伝えた。


 そのため姫たちは茶室を後にして、庭へと移動した。


 冬悟の屋敷辺りの桜の木は、まだ細くて低めの小さな木だった。


 植えられてからあまり年数が経っていないのかもしれない。


 姫が宴の際に目にした、冬雅の亡き母が嫁いできた際に植えられた木ほどに立派なものは見られなかった。


 代わりにこの辺りは、木々の伸び始めた若葉の柔らかな香りに包まれている。


 「姫、冬悟さまだ。ご挨拶なさい」


 一足先に庭を先へと進み、冬悟を探し回っていた叔父が姫に声をかけた。


 恐る恐る顔を上げると。


 予想していた通り、夜桜の下で姫と遭遇した貴公子がそこに立っていた。
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