四百年の恋
 「どうも私のことをお気に召したようで、跡取りのいない兄上の養子となるよう、しつこく薦められた」


 「次期当主に……ですか」


 「いくら太閤殿下のご命令とはいえ、兄上のいないところで勝手にそんなこと決めるのは良くないし、すぐに養子になる話は丁重にお断りをした」


 「それでは、太閤の命令に逆らったことになりませんか?」


 「条件付きで引き受けたのだ。兄上にこれからもご嫡男が生まれなかった場合に限る、と」


 太閤の意向をむげにはできない上に。


 勝手に養子の話を引き受けると現当主の冬雅は面白くないだろうと予想されるし、冬悟の立場は微妙なものだった。


 あちこちに気を遣わなければならない。


 ……。


 「花見の宴の日程が、正式に決まった」


 「本当ですか。楽しみです」


 桜の開花予定日がだいたい判明するまでは、例年宴の開催日は確定しない。


 ここにきて好天が続き、順調に蕾が膨らみ始めたのを確認し、日程が発表となった。


 その席で、当主である冬雅に婚約の旨を奏上して、月姫と冬悟、二人の婚約が正式に婚約が発表される。


 今後も冬雅に嫡男誕生の可能性があるため、とりあえずは養子縁組の話は白紙にしたままで。


 冬悟は先代当主が冬悟名義で残してくれた海沿いの邸宅に移住して、そこを居城とする。


 姫も正室として、結婚後にそこに入る。


 そんな予定だった。
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