四百年の恋
 ♪~


 幻想的な管弦楽器が奏でられ、花見の宴は始まった。


 去年は脇役の一人でしなかった月姫が、今年は主役の一人。


 重臣たちの挨拶が一段落したのを見計らい、冬悟に伴われて、当主·福山冬雅の前に初めて進み出た。


 初の拝謁。


 「面(おもて)を上げよ」


 冬雅に声をかけられ、姫はようやく顔を上げた。


 「……」


 初めて間近に目にする冬雅の顔は、さほど冬悟には似ておらず。


 (夜に君臨する月が、光で大地を満たすような魅力を持った冬悟さまに比べると。どこか荒んだ雰囲気を身にまとっておられる)


 姫の印象はそのようなものだった。


 「冬悟が京の公家の姫との縁談を断り、是が非でも正室に迎えたい姫がいると言うものだから、最初は驚いたのだが・・・」


 ……殿の声はどことなく、冬悟に似ていると姫は感じた。


 (母君は違うとはいえ、やはり兄弟だから……)


 「もしも冬悟に相応しくない娘だったら、当主である私の命令で、却下してしまうつもりだったのだが」


 姫は息を飲んだ。


 「そなたのような美しい姫が側にいるのなら、冬悟も京女に心を動かされないはずだ」


 美しい。


 以前の月姫だったら、そんな誉め言葉頂戴することは稀だった。


 (冬悟さまが先の出陣の折、京に立ち寄った際に購入してくれた、この最先端の流行の着物。今身にまとっている、このきらびやかな着物かもしれない)


 勝手にそう結論付けていた。
< 131 / 618 >

この作品をシェア

pagetop