四百年の恋
***


 何事もなかったかのように、城内見学はそのまま続けられた。


 圭介は正直怖かった。


 いつまた真姫の体が、この世の者ではない連中に乗っ取られるか心配で。


 十字架で防御し、そして真姫の手を握ったまま廊下を歩いた。


 あまりのベタベタぶりに周りの連中は呆れるくらいだったが、それくらいしないと不安でたまらなかったのだ。


 (ここはまさに、敵の陣中。少しでも隙を見せれば、命取りになる)


 展示物の見学を終えた俺たちが、次に向かったのは……。


 大広間。


 福山冬雅の時代、数々の宴が開催された場所。


 今は整備され、時にはイベント会場として一般開放されることもあるらしい。


 戸を全開にすると、庭園の満開の桜を十分に堪能できる、福山城で最も名高い場所。


 ちょうど大広間は、清掃が終わったところだった。


 戸は全開となっており、庭園から風が吹きぬける。


 庭園の桜の木々は、満開。


 これ見よがしに花びらを散らしている。


 舞い散る花びらのいくつかは、この大広間にも迷い込んで来ていた。


 「まるであの頃のように」


 一行は無言で、満開の桜の木々を眺めていた。


 まるで時が止まったようだった。


 四百年前の光景が今、目の前に蘇ったような。
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