四百年の恋
 「お放しください。私は行かなくてはならないのです」


 真姫は圭介の手を離そうともがく。


 「だめだ、絶対に」


 その時圭介は、向きを変えて薄墨の木と対面した。


 「福山、そこにいるんだろ。最初で最後の頼みだ。もう真姫を解放してくれ。真姫はお前の人形じゃない。花里真姫という現代を生きる一人の女だ」


 しかし聞こえるのは、風の音のみ。


 「お願いだ福山。一生で一度だけ、頼む。真姫を自由にしてくれ……」


 気付いたら圭介は薄墨に向かって土下座をしていた。


 (真姫が前世からの誘いに惑わされ、現世の幸せを放棄するようなことになることだけは、絶対に避けなければならない。そのためだったら俺は何でもする)


 そう誓った矢先だった。


 急に強い風が吹いた。


 風に舞い散る薄墨の花びら。


 視界を遮るくらいに、それはまさに吹雪のよう。


 凄まじい花吹雪にしばらく視界を遮られ、やがてそこに居合わせた人たちの目に映ったものは……。


 「福山……」


 「冬悟さま!」


 圭介と真姫の声が重なった。


 二人同時に目の前に福山が姿を現したのに気づいたのだった。
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