四百年の恋
 缶ビールが緩やかな下り坂を転がっていく。


 「待って!」


 それをひたすら追いかける、若い女。


 しかし転がるスピードが思ったより早く、なかなか追いつけない。


 「えいっ」


 ジャンプして飛びついた。


 ……と思いきや、ビール缶はすんでのところで彼女の手をすり抜けて。


 桜の木の下に佇む人の足元まで転がっていった。


 その人物が、ゆっくりと缶ビールを真姫(まき)に手渡す。


 「あ、ありがとうございます……」


 かなり酔っている状況での全力疾走で、真姫は若干目が回っていた。


 顔を上げてみると、そこにいたのは美しい男性だった。


 まるで時代劇から抜け出してきたような。


 そう、彼は和服姿で佇んでいた。


 和服とはいっても、よく目にする着物姿ではない。


 ちょうどテレビでよくやっている、戦国時代が舞台の時代劇などで。


 大名家の御曹司が身につけているような装束だった。


 そして、缶ビールが真姫の手に渡る瞬間。


 (どうぞ……。姫)


 彼は確かに、真姫にこう告げた。
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