四百年の恋
 その晩、深夜。


 決行の日を間近に控え、冬悟は緊張の中、ようやく眠りに落ちていた。


 心の中の葛藤。


 兄を蹴落とすことに対するためらい。


 それを上回る、今こそが好機という甘い囁き。


 戦国乱世をかつて勝ち上がった英雄たちの軌跡に思いを馳せながら、冬悟はようやく眠ることができていた。


 が。


 「冬悟さま!」


 側近の呼ぶ声で、浅い眠りは妨げられた。


 「どうした」


 「屋敷が……!」


 「屋敷が、いかがした?」


 「屋敷の周りを、殿直属の兵たちが取り囲んでいます!」


 「何だと!」


 「冬悟さまを謀反の罪で、捕らえると申しております……」


 発覚した。


 冬悟は運命の終焉を感じざるを得なかった。


 戸を開けて、屋敷の周囲を取り囲む兵士の様子を窺うと。


 「殿直属の兵たちです……」


 状況を確認してきた部下たちが、冬悟に報告した。


 「殿はどうやら、大沼からこちらへ急いで戻っている最中らしいです」


 (なぜ発覚したのか)


 辺りは混乱し、情報も錯綜していた。


 (まさか、協力を要請するためにしたためた書状……!)


 自らが記した書状が、冬雅の手の者に渡ったのかもしれないと冬悟は考えたが、


 「もしかして、赤江どのの仕業ではありませんでしょうか」


 「何だと!」


 部下の指摘に、冬悟は茫然とした。
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