四百年の恋
 「福山、冬雅(とうが)……?」


 第三代当主の名前を、違った呼び方で復唱した後。


 福山の顔色が変わったのに真姫は気がついた。


 「そうです。戦国末期の混乱する道南を統一して、江戸期における福山家の発展の礎を築いたと言われている名君ですよ」


 「……」


 「戦国大名列伝の中に、名前を加えてもいいような武将だと思うんですがー」


 「冬雅の時代から四百年。今ではそんなに尊敬すべき人物なんだ」


 福山は口元に笑みを浮かべながら、オタクに答えた。


 だが……目元は笑っていない。


 「ならば、福山冬雅のこんな話は知ってる? 弟の婚約者に横恋慕し、奪い取ろうと画策して、挙句弟に謀反の罪を着せて、死に至らしめたことを」


 「え……?」


 辺りが一瞬、凍りついた。


 福山の口調が、あまりにも淡々としていたからだ。


 ……。


 「あ、こんな話はもうやめよう。それより俺も、みんなのことをもっと詳しく知りたいな」


 福山は急に話題を変えた。


 その後徐々に、辺りも賑わいを取り戻した。
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