四百年の恋
 姫は馬に乗り、大沼から福山城へと至るはるかな距離を駆け抜けた。


 大沼から離れるにつれて、道は山へと入っていく。


 山を降りると今度は、果てしなく続く原野。


 強く手綱を握り締めながら、ただひたすら馬を走らせた。


 (冬悟さまが謀反……)


 何かの間違いだと思い込もうとしながら。


 嘘であってほしいと願いながら。


 同時に、万が一それが真実だとしたら。


 冬雅が無理矢理姫を奪ったことに対する恨みが、今回の冬悟の動機のひとつなのは明白。


 自身の存在が冬悟に恐ろしい決意を強いてしまったであろうことを心苦しく思いながら、姫は野を通り過ぎ、森を走り抜けた。


 「!」


 福山城下までもう少しの地点。


 原野や森林から、辺りが畑作地帯へと変化しつつあった時。


 馬の速度が、急激に落ちてきた。


 大沼から起伏のある道を、無理して走らせてしまったゆえ、そろそろ限界のようだ。


 (困ったことに……。ここからはまだ歩いていける距離でもないし。代わりの馬など、あるわけもない)


 その時だった。


 農夫が馬を引いて歩いていた。


 「そこの者!」


 姫は農夫を呼び止めた。
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