四百年の恋
 ……。


 「寒い……」


 夜になってかなり冷えてきた。


 ようやく膨らみ始めた桜の蕾が、寒さで枯れてしまうのではないかと心配になるくらいに。


 暦はもう春なのに、凍えそうな夜。


 空には怖いくらいに、月と星たちが輝いていた。


 「……」


 姫は両手に息を吹きかけた。


 冬のように白い息。


 そして先刻の、夕べの宴での叔父との会話を思い出す。


 (バテレンのことをあれこれ聞いて、こちらの企みを察知されて邪魔されてはまずい。全て秘密裏に、事を進めなければ)


 京周辺においては、かなりの入信者が誕生したというキリスト教。


 女性の入信者も多いらしい。


 (そこまで人を惹き付けるということは、私の魂の救済も可能かもしれない……)


 長旅で疲れているから今宵は早く床へということで、宴も早い刻限のうちにお開きとなり、姫は寝室へと戻った。


 とはいえいつもよりもかなり早い時間ゆえ、疲れているはずなのに姫はなかなか寝付けない。


 冷えた夜。


 窓の外の桜の木も、寒さに震えているようだ。


 姫の部屋は、庭園へと突き出した見晴らしのよい場所。


 障子を開き庭園を眺めながら、姫はあれこれ思案を巡らせていた。


 (周囲に気づかれぬよう、バテレンと連絡を取り。キリスト教に入信し、できればそのまま出家してしまいたい。そうすれば現世とは別れを告げることができるし、冬悟さまの魂を弔いながら静かに余生を送ることができる)


 そんなささやかな願いだった。


 しかし間もなく、突如として姫の小さな願いは引き裂かれることとなるのだった。
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