四百年の恋
 「ふーん。体育会系エースカップルね。お似合いじゃない」


 上から見ていた真姫が、ぼそっとつぶやいた。


 「何言ってんの。吉野くんは初芝さんのこと、ただの同志程度にしか思っていないでしょ。むしろ真姫、あんたのほうが」


 「え?」


 「あんたのことを相当、気に入ってるみたいじゃない」


 「まさか」


 「気付いてないのは、真姫自身だけだよ。だから静香なんて、意識しまくり」


 「冗談じゃないって」


 真姫は背を向けて、歩き出した。


 体育館から外に出ると、夕暮れの陽射しが眩しかった。


 まだ半袖でも大丈夫だけど、徐々に風は秋の色合いを強めてくる。


 (吉野くんなんて、ただの友達)


 真姫はそれくらいにしか考えてなかった。


 (男女の間に友情は、成立しないってよく言われるけど)


 空を見ながら、真姫はふと思った。


 一般的にそう言われるのに、自分たちの間にはれっきとしたそれが成立している。


 そう強く感じた。


 (帰ったら明日の予習)


 明日の予定を考えた時。


 ふと例の聴講生・福山の顔が浮かんだ。


 ミステリアスな深みをたたえた、黒い瞳と綺麗な髪。


 (明日も会えるかな……)


 明日は地域史の講義がある。


 福山は地域史1と地域史2、計二つの講義を聴講しているらしい。


 つまり週に二度ほど会える計算になる。
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