四百年の恋
 その後、姫の体は二度と海から浮かんでこなかった。


 冬雅はなかなか姫の死を認めようとはしなかったが、その後二度と姫の姿が見られなかったという事実が、徐々に冬雅に現実を思い知らせたようだ。


 ……それから程なくして、姫の両親が自害した。


 「月さまのお腹にお子がいらしたのには、気づいておりました。ですが月さまが必死でお隠しになられているのを見ると、私も知らぬふりをするしかなく……」


 侍女が両親に打ち明けた。


 「なぜ早くそれを申さなかった!」


 衝撃を受ける両親。


 「申し訳ありません……」


 侍女はただ詫びるしかなかった。


 姫は冬雅の寵愛から逃れるために死を選んだ。


 それは事情はどうあれ冬雅の体面を大きく傷つける。


 両親はその事実に耐え切れなかった。


 続いて、姫の養父母となっていた叔父夫婦が、責任を取る形で自害。


 冬雅の体面を汚したと周囲から責められたのと。


 姉夫婦(姫の両親)までも責任を取って自害したとあっては、つらくて生きてはいられなかったのだ。


 多くの人の幸せを犠牲にしてしまった。


 すでに永久の眠りについている姫は、何一つ知ることなく……。
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