四百年の恋
 「冬悟さま……」


 花里真姫、いや月光姫は、ようやく巡り会えた福山冬悟の腕の中で泣いていた。


 「私は新たな人生を手にして、あなたと共に生きようと願い、賭けに出たのに。あなたはどこにもいなかった」


 福山冬悟は死後、墓所に植えられた桜「薄墨」の中に魂を閉じ込められていた。


 供養の席で念仏を唱えた高僧の法力が強かったのと、死に追いやった張本人である兄・福山冬雅の後悔の念が強かったため、魂が桜の木に縛り付けられてしまい成仏できずにいた。


 肉体は朽ち果てても魂が現世に取り残された状態なので、当然自由に生まれ変わることができない。


 死後速やかに次の生を選ぶことができた月姫とは、すれ違いになってしまった。


 「何度生まれ変わっても私はあなたを探し続け、その都度失望に襲われた」


 生まれ変わる度に、月姫は無意識のうちに冬悟の姿を求めていた。


 江戸、明治、大正、昭和……。


 巡り会えないままに月姫は、幾度目かの生を「花里真姫」として得ることができた。
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