四百年の恋
 「花屋は、駅前通にある。明日の午前十時に予約入れてあるから」


 「ありがとう」


 翌月。


 福山城内で、福山冬悟の慰霊祭が執り行われることとなった。


 四百年前に、陥れられて死に追いやられた福山冬悟。


 亡骸は福山家代々の墓所に弔われることなく、城に隣接した裏庭のような場所に埋められていた。


 そこには鎮魂のために、「薄墨」と名づけられた桜の木が植えられ。


 だが時は流れ、全ては忘却の彼方に。


 福山冬悟の魂と肉体を糧に成長した「薄墨」は、やがて見事な花を咲かせるようになり。


 人々は美しい桜の木に目を奪われ、その木が何のために植えられたのかすっかり忘れ去ってしまっていた。


 だが今になって、倒壊した老木の下から発見された白骨。


 鑑定の結果、やはり四百年ほど前の人骨だった。


 身長約180センチ、当時としてはかなり大柄な、死亡推定年齢二十歳ちょっとすぎの男性の遺骨。


 状況からして、それは福山冬悟のものに間違いない。
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