四百年の恋
 「真姫!」


 何かに導かれるかのように、圭介はホテルの向かいにある海岸に向かって駆け出した。


 先ほど人影の見えた辺りへと急ぐ。


 「あ……」


 人影を再確認。


 明らかに沖へと向かって歩いている。


 「ま……!」


 叫ぼうとした瞬間、足がもつれて砂浜で転倒した。


 圭介のケガした足は弱まっていて、以前のようには走れない。


 しかも砂の上なので、思ったように前に進めず。


 「真姫!」


 再び起き上がり、人影目がけてできる限りの力を振り絞って走った。


 ようやく波打ち際に到達。


 真姫は腰の辺りくらいの深さのある沖まで進んでいた。


 「真姫、止まるんだ!」


 ようやく圭介の声が、真姫の耳に届いた。


 真姫は驚いて一瞬振り返ったが、聞こえないふりをしてそのまま沖へと向かって歩き続けた。


 「何やってるんだお前、まさか」


 「……」


 圭介も真姫の後を追い、海へと入った。


 晩春の海水はまだ冷たかったが、それを感じる余裕はなかった。


 「俺との約束、あれは嘘だったのか?」


 真姫は福山の元へ還ろうとしている。


 圭介は直感した。


 「嘘ついて逃げるなんて許さないぞ。待つんだ!」


 真姫は振り返らず、前へ進み続けた。
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