四百年の恋
 「おい、あんたら何やってるんだ!」


 通りすがりの漁業関係者が二人の異常な行動を目にして、追って海に入ってきた。


 「この辺りの海域は、一見波は穏かなんだが、沖合いは潮の流れが急だぞ!」


 「真姫っ!」


 圭介は必死で真姫との距離を詰めた。


 このまま福山の元に逝かせるわけにはいかない。


 波を掻き分け、あと一歩で真姫の肩を掴める位置まで到達した。


 「真姫、戻るんだ」


 その腕を掴まえようとした、まさにその瞬間。


 突然の白波が、二人の間を永遠に隔てた。


 「うわっ」


 波飛沫を浴びて、圭介は一瞬たじろいだ。


 その時、


 「ごめんね……」


 真姫はようやく振り返り、圭介を見つめた。


 もう、胸から上しか見えていない。


 最後に見たその瞳は、圭介に対してすまなさを感じているのか、ひどく悲しみに満ちていた。


 そして真姫の体は、水面下に姿を消した。


 急に沖合いの深みに到達したのだろうか。


 「真姫!」


 「あんた、そこから先は急に深くなるぞ!」


 圭介は突然背後から、漁業関係者に抱き抱えられた。


 「離してくれ! 俺の婚約者が今沈んだんだぞ!」


 「このままならあんたも溺れてしまう! 今救命ボートが到着する。そっちに任せるんだ!」


 「待ってられるか、今俺がすぐにでも……」


 「やめるんだ」


 そのもみ合いの最中、突然圭介は意識を失った。


 海の冷たさが急に体に堪えたのだろうか。
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