四百年の恋
 「大学に行って何したいか、それがまだ定まっていないようなんですよ」


 「この時期になっても、ですか?」


 同僚の言葉に圭介は驚く。


 この四月から新たに美月姫の担任になったばかりの圭介は、まだ彼女について詳しい情報がなかった。


 学年一の優等生のことだったので、噂は耳にしていたが。


 「ええ。学力的にはどこでも受けられるから、志望校絞込みの必然性を感じないままで。特別得意教科っていうのもないため、何が好きなのかも分かっていないようなんです」


 「秀才ゆえの悩みですね」


 「今週から、本格的に個人面談が始まるでしょ。その時きちんと指導しなきゃならないですね」


 「結構重荷ですね」


 「いやいや……。先生のクラスには更なるVIPが在籍してるじゃないですか」


 「清水ですか……」


 学内一のある意味有名人かつ問題児の顔が、思い浮かんで一瞬憂鬱になる。


 圭介はため息をついた。


 時計を見上げる。


 そろそろ部活に顔を出す時間だ。
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