四百年の恋
 「大村 美月姫(おおむら みつき)……」


 職員室に戻った圭介は、先ほどの女生徒の名を口にした。


 担任ゆえ所持にしている、彼女のデータシートを見つめながら。


 美月姫は彼のクラスの生徒だ。


 今風の、派手な名前。


 だが外見は、至って地味。


 長い髪はきちんと束ねられ、メガネをしているのでいかにも勉強ができそうなタイプに見える。


 その通り彼女は、典型的な優等生。


 成績も、「去年までは」常に学年トップだった。


 勉学優秀で問題行動もなく、手のかからない模範生だった。


 「吉野先生、お茶でも」


 同僚教師が冷蔵庫から、ペットボトルのお茶を持って来てくれた。


 「あ、どうも」


 「大村ですね。この学園の希望の星」


 同僚が美月姫のデータを覗き込んだ。


 「このまま行けば、本州の旧帝大クラスも断然狙えそうなんですが、欲がないんですよね」


 同僚にそう言われて、圭介は美月姫の志望校一覧に目を移した。


 志望校は全て、北海道内の大学。


 当然全て、合格確率80パーセント以上の「A判定」。


 学園の進学実績を上げたい上層部は、美月姫に旧帝大を受験させ合格させるようやんわりと圧力をかけてくる昨今であった。
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