四百年の恋
 「いただきます……」


 注文したA定食に、真姫は箸を付け始めた。


 福山も真姫に倣って、同じものを注文していた。


 「……」


 黙々と箸を進めた。


 圭介と一緒の時は、バカ話などで盛り上がり気楽なのに。


 福山と向かい合ってのランチに、真姫はこれまでに体験したことのないような緊張感を覚えていた。


 出会ってまだ間もない男性なのもある。


 美しい絵画から抜け出したような容貌の福山が、とても綺麗で。


 そんな人と一緒にいることに対して、かなりの息苦しさを感じていたのだった。


 (そうだ、何か話題を……)


 真姫はあれこれ考えた。


 「福山くんって、どんなテレビ番組見るの?」


 当たり障りのない質問を投げかけた。


 「ん……。テレビはあんまり。ニュースくらいかな。現代社会の動静を、頭に入れるだけでいっぱいいっぱいだからね」


 「そうよかった。私もあまりドラマとか見ないから、そっち方面の話題になっても全然分からないし。大学とバイトと家の往復で、なかなかゆっくりテレビを見る暇も」


 「花里さんも、バイトしてるんだ」


 「うん。親に仕送りしてもらってるんだけど、学費と部屋代以外は自分で稼ごうと思って……」


 「君が働くなんて、想像もつかないな」


 「そう? そんなお嬢様に見える?」


 「うん」


 照れることなくそんな相槌を打たれ、真姫は驚いた。
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