四百年の恋
 「いやー、吉野先生は理想高そうですが。今度いい子いたら紹介しますか?」


 先輩が圭介の肩をポンポン叩く。


 「いえいえ、一人が気楽なので。当面は何も考えていませんので……」


 この手の話は、いつも笑顔でやんわり却下。


 教師になって仕事が一段落した頃から、恋人や家族がいないのを知られる度にこんな話を振られて来た。


 同僚からは合コンの誘い、先輩からはお見合いの斡旋。


 全てお断り。


 浮いた話の一つもないので、学校関係者以外の友人たちには、


 「まさか教え子にちょっかい出してるんじゃないだろうな」


 と勘ぐられることも。


 「そんなバカなことして、仕事失うような真似はできませんよ」


 笑って回答。


 女子高時代は特に、今でも当然教え子との恋愛問題はタブー。


 ……まさか18年もこんな状態が続くとは、圭介自身が一番驚いていた。


 あの時、真姫を永遠に失った時。


 全ての世界は色褪せ、時は止まった。


 酒に溺れ、目前に迫っていた教員採用試験もそれどころではなく、不合格。


 やり場のない悲しみに自分自身を見失い、一時は大学卒業すら危ぶまれた。


 だが膝の靭帯を痛めて、バドミントンで実業団入りの夢が打ち砕かれた時同様。


 圭介は絶望の底から、再び自力で立ち直った。


 愛しい人の面影を胸に、一人生きていこうと誓った。


 やがて時間の経過と共に悲しみは薄れ、違う愛に目覚めるかもしれない……そう思っていた。


 しかし。


 年月の流れですら、真姫との思い出を薄れさせることはなかった。


 あれから18年。


 未だ追憶の中に、真姫の面影は生き続けていた。
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