四百年の恋
 職員室に戻ると、他の授業のない教職員が多数いるため、授業を打ち切るほどの体調不良ともなれば騒ぎになると思い。


 圭介は無人の「社会科準備室」へと向かった。


 そこは社会科担当教師のみのデスクと、授業に必要な道具だけが置かれている。


 準備室に入ってすぐ、誰も入ってこないように圭介は鍵をかけた。


 応接コーナーのソファーに横たわる。


 (間違いない、あれは真姫……!)


 眼鏡を外した美月姫の顔を見て、圭介は直感した。


 (いつかどこかでまた巡り会えるような気はしていたけど、まさかこんな形で)


 胸の震えを抑えられなかった。


 雰囲気も性格もかなり異なっているので、一見しただけでは分からないけれど。


 圭介はそれが間違いではないような気がした。


 だけど圭介は、どうすることもできなかった。


 真姫を永遠に失ったあの時。


 また巡り会えることができたなら、再び愛の日々を繰り返したいという祈りがあったのは事実。


 しかし今度の世では、教師と生徒。


 年齢も倍くらい離れている。


 まずいことになった。


 この複雑な感情が表沙汰になっただけでも、本人にもきっと避けられる。


 前世の記憶があるわけでもないんだから。


 噂になりでもしたら、周囲の生徒たちの信頼をも失うだろう。


 第一、何か問題を起こしたら学校をクビになる。


 不祥事を起こせば、あちこちに迷惑がかかる。


 そう考えて、圭介は自らの感情を封印した。


 美月姫のことは、遠からず近からず見守っているだけにした。


 あくまでも教師という立場において。


 すでに目の前の激情でのみ突き動かされるような年齢でもないので、紳士的に振る舞うことができた。
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