四百年の恋
 ……。


 「センセー。アダルトDVDじゃなくてよかったね。そんなの間違って教室で流したでもしたら、クビになるのも時間の問題だったね」


 授業終了後。


 テレビを再び社会科準備室に運び込み、ドアを閉めようと振り返った時。


 ドアの外に清水が立っているのに気がついた。


 「ばか言え。そんなの見るわけないだろ」


 「正直に話してくれていいよ。誰にも言わないからさ」


 「だから、どこの馬の骨とも知らない女の裸なんて、興味ないって」


 「男ならいいの?」


 「……そういう趣味もない」


 圭介がうっかりテレビのリモコンを教室に置き忘れていたので、清水はそれを届けに訪れ手渡した。


 だがそれは、あくまで口実で……。


 「センセー。俺の親のこと分かっちゃったんでしょ」


 さっき丸山乱雪がテレビに映った際に、圭介が慌てふためいて映像を消そうとしているのを見て、清水は察したようだ。


 先生は事実を知ってしまった、と。


 「ま、仕方ないよね。聖ハリストスでは公然の秘密だったから」


 清水は自嘲気味に笑いながら、勝手に準備室のソファーに座った。


 他の教師はおらず、圭介と二人きり。
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