四百年の恋
 「……そういうわけなんだ。だから俺は、進路を自由に選べないの」


 窓辺で腕を組みながら、清水は圭介に告げた。


 「だけど、跡取りとか何だとか。江戸時代じゃないんだから。もう少し両親と話し合ったほうがいいんじゃないのか?」


 「母さんの期待を裏切れない」


 「期待?」


 「母さんは貧しい家の出だったんだけど、幹事長に出会ってから、店を持つことができた。だけど周囲には見下され続けていた。俺も母さんも」


 清水は丸山乱雪を決して父親とは呼ばず、「幹事長」と言い続けた。


 そして……いくら丸山幹事長が認知していても、愛人とその子供という事実に変わりはない。


 丸山乱雪に面と向かって非難できない分、周囲からの冷たい視線が清水母子へと浴びせられていたようだ。


 「俺と母さんを馬鹿にした奴らを見返してやりたい気持ちは、俺にもある」


 窓辺にもたれながら、清水ははっきりと圭介に告げた。


 福山冬悟によく似た瞳に見据えられ、圭介は恐怖すら感じる。


 「でも……、定められた道の上を、黙って歩き続けているだけじゃ面白くない、って気持ちもあるんだよね」


 そう言って今度は苦笑いを見せる。
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