四百年の恋
 「……」


 次の日の朝。


 始業時刻よりもかなり早めに、美月姫は登校した。


 校舎を取り囲む門から、玄関脇の花壇とその隣のウサギ小屋を覗き込んだ時。


 清水がウサギにエサを与えているのが見えた。


 (あんな遅刻魔なのに、当番の日はきちんと登校するんだ)


 新学期直後のクラス役員決めの際。


 美月姫はクラス委員長になり、清水は立候補で「飼育委員」に任命された。


 委員会活動など面倒がるかと思いきや、動物の世話をするのが好きらしく。


 「自宅はマンションで、ペット禁止だから」


 自宅で飼育できない分、学校で動物の世話をしたかったらしい。


 学校内には屋外のウサギ小屋の他、玄関の中には金魚の水槽もある。


 小屋の清掃や水槽の水替えは清掃業者がやってくれるが、エサをやるのは飼育委員の担当だった。


 臆病なウサギは最初、清水を見て怯えていたが、徐々に慣れてきたようで、今では清水の気配を察すると寄って来るようになった。


 「いっぱい食べて、大きくなれよー。あ、別に食べようと狙ってるわけじゃないからね」


 エサをむしゃむしゃ食べているウサギに向かって、清水はつぶやいていた。


 いいかげんに日々を過ごしているような印象を持っていた清水が、こんなに動物の世話をまめに行なうとは美月姫にはちょっと意外だった。
< 356 / 618 >

この作品をシェア

pagetop