四百年の恋
 「先生は……先生としか思えない」


 そう答えつつも。


 時折吉野が自分に対して向ける優しいまなざしが、どことなく美月姫には気になった。


 「でも先生には……、忘れられない恋人がいるんでしょ」


 何かを打ち消すかのように、美月姫は口にした。


 「そうそう、月光姫とかいうお姫様だっけ」


 別の友人も思い出した。


 先生の昔の恋人は、前世が月光姫というお姫さまだった。


 ところがある日、桜の木の中から福山家の御曹司が甦って現れ。


 前世からの誓いを理由に、先生は恋人を奪われた。


 それから18年。


 先生は今でも、恋人が忘れられずにいるという。


 「もしもまた、恋人が生まれ変わって現れたとしたら……。先生はまた恋に落ちるのかな?」


 美月姫はふと考えた。


 未だに遠い思い出に操られている先生。


 恋人に瓜二つの女性が、また現れたとしたら……?
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