四百年の恋
 「おーい、花里(はなさと)」


 花里真姫は、振り返った。


 「吉野くん」


 同期の吉野圭介が立っていた。


 「ずっと戻って来ないから、みんな心配してるぞ」


 「ごめん。桜がとても綺麗だから、つい見入っていたの」


 「確かに」


 二人の目の前には、満開の桜がライトアップされて輝いていた。


 ……この日は大学の同期の仲間で、松前の公園に花見に来ていた。


 北海道南部の函館から、車で約一時間ちょっと。


 北海道では唯一といえる、江戸時代からの伝統がある城下町。


 公園を埋め尽くす桜が有名だった。


 満開のタイミングを見計らっての、大学のクラス仲間による夜桜見物。


 花見というよりも、ビールやジンギスカンを飲み食いしながら、おしゃべりに興じるのがメインなのだけど……。


 「そうそう、さっき桜の木の下に男の人がいたの」


 「男?」


 「すごくカッコよかったー」


 「俺よりか?」


 「ばーか」


 真姫は舌を出した。


 「で、そいつは?」


 「いなくなっちゃった。その前に私を懐かしそうな目で見つめて……姫、って呼んだの」


 「姫?」


 圭介は大爆笑した。


 「お前が、姫ってキャラかよ」


 「そんなに笑うことないじゃない。……否定はできないけど」
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