四百年の恋
 ……寝る前に窓から空を見上げると、上弦の月が西の空に傾いていた。


 ふと思い出したのは、深い霧に霞んだ満月。


 夢中で体を委ねていた時、わずかに優雅の頬を照らしていた。


 「やり逃げ」


 さっきのタレントの言葉が、美月姫の耳に響く。


 (そういえば、キスは無かった)


 夢中でその時は何も考えられなかったのだけど、今になって思い返すとあの時、唇は一度も重ねられなかった。


 体は一つに結ばれていても、重ならない唇……。


 最近優雅の親友と付き合い始めた女友達は、ファーストキスに関してあれこれ、夢見心地な表情で打ち明けてくれた。


 他の多くの彼氏のいた経験のある友達も、まず重要なイベントはファーストキスで、それから先は順を追って……という感じらしい。


 学校は元々、倫理観の厳しいお嬢様学校。


 周囲にはあまり、男関係の激しい子はいなかった。


 それゆえ美月姫の周囲には彼氏がいる子の割合もまず少なく、キス以上の経験がある子は……ゼロかもしれない。


 そんな環境の中で、平凡な毎日を送っていた美月姫。


 (私、ファーストキスもまだなんだ……)


 キスの経験もないまま、この夏いきなり初体験を済ませてしまった。


 統計を取ったわけではないのだけど、キスのない性行為は多くの場合が体目的、愛がないと言われている。


 美月姫もその俗説は耳にしていた。


 それゆえ非常に不安になった。
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