四百年の恋
 (もしかして、私……)


 不安を裏付けるような事実がある。


 あの一件以後。


 夏休みが明けて以来ずっと、優雅の美月姫に対する態度がどこかよそよそしい。


 あの衝撃の夜以来、優雅にはじめて会ったのは新学期の日。


 メアドも電話番号も、同級生であるってだけの理由で何となくは聞いていた。


 とはいえ頻繁にメールをし合う仲でもなかった。


 急ぎの用件や連絡事項があるときのみ。


 なのにいきなり、馴れ馴れしいメールや電話をするのも憚られた。


 成り行きで体の関係を持ってしまったとはいえ、正式に交際の約束をしたわけでもないし。


 ただのその場限り、一夜限りの関係。


 そのようなケースにおいて、調子に乗って彼女気取りで振る舞ったりすると、逆効果であることを頭のいい美月姫は察していた。


 だから今まで通り、自然体で新学期からも優雅に接しようと心がけていたのだけど……。


 新学期を迎え、隣の席の優雅に今までのようにおはようと挨拶をした。


 以前だったら人懐っこく、笑顔で応えてくれた優雅だったのに。


 その時は伏し目がちに、小さな声で挨拶を返したのみだった。


 会話も続かないまま始業式とミサの席へ。


 教室に戻るとすぐに席替え。


 運命を象徴するかのように、教室の反対側に二人は隔てられてしまった。


 これまで数度の席替え全てで、隣の席だったという奇跡的偶然は、ついに途絶えてしまった。
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