四百年の恋
 「お前は、一度目にしたピースを、そのまま記憶しておけるんだな」


 「ん……。何となくイメージで」


 「お前の頭の中は、ギガバイトではなくてテラバイトの領域だな」


 「……テラバイト」


 「ん? どうかしたか?」


 「以前にそんな話、大村さんとしたのを思い出したんだよね」


 「大村と?」


 美月姫の名前を優雅が突然口にしたので、圭介は動揺している。


 優雅に気づかれないよう、必死で気持ちを抑える。


 「この前、模試ツアーで札幌に行った時、色々話したんだよね」


 二人の間に起こった衝撃の事実を夢にも思わぬ圭介は、試験の合間に雑談した程度にとらえ安心していた。


 「その時大村さんにも言ったんだけど、記憶容量が他人より大きいことは、必ずしも幸せとは限らないんだよね」


 「ん? どういうことだ?」


 「普通の人だったら、嫌なことがあっても、時間が経てば記憶は徐々に薄れていくでしょ。でも俺はそれができないの」


 記憶できる容量が他人より大きいゆえ、嫌なことやつらいことを忘れ去ることがなかなかできないのかと、圭介は推察した。


 「でも、嬉しかったことことや楽しかったことも、鮮やかに記憶しておけるだろ? それらも嫌なこと同様、人は次第に記憶が薄れてしまうものだから」


 「なるほど」


 優雅はジグソーパズルを持つ手を休めて、圭介の話を聞いていた。
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