四百年の恋
 「センセーって、俺の思考の観点と異なった物の見方をするから、面白いんだ」


 優雅はそう言って、先ほど圭介が冷蔵庫から持ってきたペットボトルのお茶を飲んだ。


 「センセーも、忘れたくない思い出とか、いっぱいあるんでしょ」


 そして笑顔で尋ねてきた。


 「それはもちろん。長く生きていれば、生きた分だけ」


 「センセーの昔の恋人の写真ってないの?」


 「!」


 圭介はぎくっとした。


 「そ、それは昔の話だし……。当時はあまりカメラも普及してなくて」


 とっさに嘘をついた。


 入学時に撮影した、大学の同期の集合写真や。


 付き合っていた頃、二人で撮った写真が何枚か残されている。


 だがそれらを優雅に見せるわけにはいかない。


 真姫が美月姫に似ていることを、優雅に勘付かれてはまずい。


 「センセー、いったいいつの時代の人さ?」


 さすがに優雅は笑った。


 「さすがに当時はデジカメはまだ普及してなかっただろうけど、フィルム式のカメラや使い捨てカメラとかは、普通にみんな使ってたんじゃないの?」


 生まれる前の話とはいえ、さすがに優雅も不審に感じたようだ。


 「ああ……。それは一部の人はそうだったかもしれない。だけど中にはそうじゃなかった人も」


 しどろもどろな口調で不明瞭な言い逃れだが、幸いなことに優雅はそれ以上追求してこなかった。
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