四百年の恋
 「えっ、太閤・・・」


 太閤って、かの有名な豊臣秀吉(とよとみ ひでよし)?


 聞き返す前に、真姫は背後から強く抱きしめられた。


 「福山くん、ちょっと……!」


 「しばらく、こうしていたい」


 「……」


 前回のキスの際もそうだったけど、今もまた。


 どういうわけか抵抗できぬまま、その腕の中に収まってしまう。


 「姫……」


 なぜだろう、優しい声で「姫」と囁かれると。


 真姫の胸は激しく波打つのだった。


 何か大切なことを忘れているような焦燥感。


 思い出したいのに思い出せないことに対する、焦りと苛立ち。


 それらの感情が入り乱れていた。


 ただ福山の腕の中は、まるで楽園のように居心地が良く。


 深い眠りに落ちていきたくなってしまう。


 そして振り向きざまに、二人は引き寄せられるように唇を重ねた。


 海側は暗いので、あまり見物客は訪れない。


 とはいえ完全な無人ではない。


 たまに通り過ぎる人が、思わず目を逸らしてしまいたくなるくらいの熱いキスを。


 二人はしばらくの間、繰り返していた。
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