四百年の恋
***


 冬休み間近のある日。


 今日も清水優雅が社会科準備室に遊びに来ていた。


 圭介がポケットマネーで購入したジグソーパズル。


 以前に増して難解な洋画。


 色褪せた油絵の具の色彩が微妙すぎて、パズルとしては難解極める名画。


 それを着々と完成に近づけていく優雅。


 圭介はこまごまとした事務作業を片付けながら、時折優雅の手際を観察していた。


 ……先日職員室で、別の教師たちがこう話しかけてきたのを思い出した。


 「最近の清水は、すっかりおとなしくなりましたな。以前の問題児ぶりはすっかり鳴りを潜めました」


 「いやはや、これも吉野先生の指導の賜物で」


 優雅の「問題児ぶり」に恐れをなして、担任職を押し付けてきた連中が、今になって圭介を賞賛している。


 「猫も……。子猫の頃はイタズラばっかりしていますが、成長すると次第に落ち着いて来るものです。それと同じことでしょう」


 そう答えつつも圭介も、優雅の微妙な変化を感じ取っていた。


 特に夏休みを終えた頃から。


 底抜けの無邪気さが消えたような気がする。


 受験勉強の日々で、忙しさに飲まれているのかもしれない。


 すでに18歳。


 成長したのかもしれない。


 そして気になっていることがあった。


 以前はクラスの男女、分け隔てなくフレンドリーに接していた彼が。


 最近は明らかに垣根を設けているのが、担任の圭介には察せられた。


 特に大村美月姫に対して。
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