四百年の恋
 「どうして……そんなに急に。みんな謝恩会で会えるのを楽しみにしていたのに……」


 「周囲が無理やり命じたんじゃないわよ。あの子の意思よ」


 非難の矛先が自身に向けられているのを察した紫は、美月姫にそう念を押した。


 「清水くんの……ですか?」


 「そう。向こうでの顔見せがあるから、予定より早く来てほしいと丸山から要請があったのは事実。だけど今日の便でも大丈夫だったのよ。なのに優雅は、昨日の最終便で行きたいって……」


 「なぜ……」


 「私には、あの子の頭の中は分からないわ。別れがつらくなるから、早く行ってしまいたかったんじゃないのかしら」


 「……」


 紫は今度は、手元にあったグラスでウィスキーを飲み干した。


 指先が震えているように見えた。


 一方美月姫は、全身が悲しみで震え出しそうになるのを必死でこらえていた。


 ……卒業式の、吹雪の帰り道。


 意を決して伸ばしたその腕を。


 優雅は拒絶して、言葉もなく一人去って行ってしまったのか。


 考えただけで切なくて悲しくて、美月姫は思い切り泣いてしまいたかった。
< 494 / 618 >

この作品をシェア

pagetop