四百年の恋
 「で……? その同級生さんが、こんな所まで何の用かしら。ホステスの面接だったら、人事担当スタッフが……」


 「清水くんにお会いしたいのですが」


 紫の発言をかき消すかのように、美月姫は単刀直入に申し入れた。


 「優雅に?」


 「昨日の謝恩会、連絡もなしに清水くん現れなくて、何かあったんじゃないかってみんな心配してたんです。どうして来なかったのか聞きたいし、それに」


 それに、二人のこれからはどうすべきか相談したくて。


 そう言いかけて美月姫は言葉を飲み込んだ。


 「優雅はもういないわよ」


 「いない?」


 美月姫には紫の言葉がにわかには理解できなかった。


 呆然として紫の表情を眺め続けているだけだった。


 40代半ば、自身の母親よりはちょっと若いと思われる。


 まるで女優のような美貌。


 どことなく優雅に目鼻立ちが似ている。


 ただ心なしか、前回遭遇した時よりもかなり痩せたような印象。


 「いないって、どういう意味ですか」


 ようやく美月姫は聞き返した。


 「昨日の羽田行き最終便で、優雅は東京に旅立ったわ。丸山の元へ」


 「えっ?」


 優雅と仲のよかった男子の話では、東京行きはまだ先だから、謝恩会には出席するって言ってたはずなのに。


 そして美月姫にも、話の続きは謝恩会の帰りにって約束していたのに。
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