四百年の恋
 一方冬悟は。


 (俺は、自分はしでかしたことの大きさに嘆き苦しみ、できうる限りの供養を行なった。だがそれが災いして、冬悟の魂は何百年も、鎮魂の桜の木の下に閉じ込められてしまった)


 どんなに月光姫が転生を繰り返し、愛した男を求めてさまよっても。


 魂が桜の木の下に閉じ込められているわけだから、当然生まれ変わることができない。


 再会の約束も果たせない。


 実りなき愛を幾度となく経て、幾千の時を越えて。


 再び月光姫は幾度目かの生を受け、花里真姫としての人生を歩んでいた時。


 偶然訪れた福山城下で、桜の木の根元にたどり着いた。


 それは根元に眠る福山冬悟の魂を呼び覚まし、この世に連れ戻した。


 そして冬悟はついに成仏した。


 真姫も後を追った。


 ……。


 一人きりの部屋。


 夜は刻々と更けていった。


 圭介はとめどなく流れる涙を拭うことなく、ソファーに横たわっていた。


 「ははは……」


 悲しいはずなのに、なぜか可笑しい。


 自分が終わりなきメビウスの輪の中で踊らされていたことに、気づいてしまったからだ。


 「まさに、原罪だな」


 独り言をつぶやいた。


 (当主としての権力に驕り、面白半分で愛する者たちを引き裂き、不幸にした。その罪は、生まれ変わった今でさえまだ許されていないのか)


 ようやく分かった。


 自身がこれまで、実らない愛をくり返し続けてきた理由が。


 一たび手に入れても、愛する者は必ず去っていく。
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