四百年の恋
 夕暮れ。


 ただ、波音だけが響いている。


 「先生」


 「何だ」


 「連休の旅行、楽しみです」


 海を見つめたまま、甘い口調で嬉しそうに話す。


 その手が腕の下の方に移動して、触れた指を確かめるかのように、ゆっくりと圭介の指を包み込んだ。


 「先生と一晩中、一緒にいられるんですね」


 「……」


 圭介は何も答えられなかった。


 「一緒の時を過ごせば過ごすほど、離れられなくなりそうで怖いです」


 それは圭介も同じだった。


 愛しい声で囁きかけてくる。


 その柔らかな唇に誘われるがまま、流されてしまいそうになる。


 「そうだ、」


 美月姫は圭介の腕から離れた。


 そして流木を手に取り、砂浜に何か書き始めた。


 「何を書いてるんだ?」


 「ふふ……。おまじない」


 「おまじない?」


 時折波にさらわれて、平坦になっている砂地。


 そこに美月姫は、「MITSUKI」と自分の名前をローマ字で書いた。


 次に「&」。


 そしてちょっとためらった後、「&」の後に「先生」と書き加えた。
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