四百年の恋
 「激論がエスカレートしてきたので、花里さんを強引に先に帰らせたのです。その後歯止めが利かなくなって、吉野くんは激高して研究室を飛び出して、薄暗い階段付近で足を滑らせて……」


 周囲の関係者は、息を飲んだ。


 「ケガをなさった方は、四階付近から吹き抜け部分を真っ逆さまに転落してきました。それをこの方が、受け止める形で助けてくださったのです。この方が抱きとめられなかったら、手すり部分に頭をぶつけてしまい命に関わる事態だったかもしれません」


 大学内では放課後、警備会社の人が一時間おきにパトロールを行なっている。


 圭介の転落事故の際、たまたま一階を巡回中だった警備員が、重要な証言をしてくれた。



 四階から転落してきた圭介を、一階で福山が抱きとめたと。


 福山が抱きとめていなければ、圭介は手すりに頭を強く打って死んでいたかもしれないと。


 (でも福山くんは確か、私たちと一緒に四階にいたはずでは……)


 転落直前の記憶が混沌としているものの、真姫の目の前で言い争った後、本格的な喧嘩に突入しそうな勢いだったはず。


 だから真姫は、圭介を突き飛ばしたはず。


 (いずれにしても圭介くんが落ちたのは、私が突き飛ばしたせい……?)


 真姫は圭介に大ケガを追わせた張本人は自分だと確信し、血の気が失せた。


 そして周囲に居合わせた関係者の多くは皆、疑っていた。


 圭介と福山、二人のケンカの原因は、課題についての言い合いなどではなく。


 女、すなわち真姫の取り合いが真相なのではないか? と。
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