四百年の恋
 「はっきり覚えているのは、四階で割れたガラスの欠片を手に、福山に襲い掛かった辺りまでなんだ。次の瞬間俺はもう階段から転落していて、一階で福山に抱きとめられていた」


 「私は全然、その辺りは覚えていない……」


 「現場に居合わせた警備会社の人の話では、福山がそこにいなければ、俺は手すりに頭をぶつけて死んでいたらしいからな」


 「……」


 想像するだけでも、真姫は痛々しく感じた。


 「すぐに立ち上がることができたから、骨折はしなかったと安堵したのも束の間。膝に全く力が入らなかった。だけど転落の際、いつ膝を負傷したのかも全然覚えていないんだ」


 「まさかこんなことになるなんて……。本当にごめんなさい……」


 再び真姫は詫びた。


 「だからお前のせいじゃないって。気にするな」


 「そういうわけには、」


 「それよりお前、これからどうする気だ」


 「どう、って?」


 「あいつが好きなんだろ?」


 「え……」


 「あいつと付き合うのか?」


 「今はとてもそんな気分にはなれない……」


 想いが冷めたわけではない。


 ただ……悪意をもってのことではないにせよ、人一人が不幸になったのを横目に、自分たちだけが幸せになるなんて真姫にはできなかったのだ。
< 71 / 618 >

この作品をシェア

pagetop