四百年の恋
***


 翌日。


 姫は輿に乗せられ、福山城まで半日の旅が始まった。


 輿の中で黙って腰かけているのは、姫の性分に合わなかった。


 「馬で駆ければ、ほんの数時で着くのに」


 「ばか者!」


 出がけにまた、父上に叱られた。


 輿の中から眺める景色が興味深く、最初はあれこれ楽しんでいたのだけど。


 輿の微妙な揺れが心地よくて、気がついたら寝てしまっていた。


 ガタッ。


 危なく転げ落ちそうになって、目が覚めた。


 慌てて体勢を整え、隙間から外の様子を窺う。


 そろそろ夕方のようだ。


 辺りの建物がやたら立派で、すでに福山城下に入っていることを悟る。


 姫が福山城下を訪れるのは、初めての経験。


 地元とは桁外れに華やかで賑わった城下町に、姫は驚きを隠せなかった。   


 ……。


 「月姫、遠路はるばるよくお越しになりました」


 福山城下の一角にある、叔母夫婦の家に到着。


 叔母夫婦には、里帰りの際に何度か会ったことがある。


 父の姉である叔母は、優しそうな人。


 その夫の叔父は、真面目そうな人。


 叔父は領主である福山冬雅(ふくやま ふゆまさ)の側近として、場内でもかなりの発言力があるという。


 福山の殿に今年の「花見の宴」の進行役に命じられ、叔父は張り切っている。
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