勝手に百人一首
その音をはっきり聞いた瞬間、エレティナの脳裏に、鮮やかに蘇ってきた思い出があった。





庭から放られた小石がベランダの手すりを叩く音の合図。




窓から顔を出すと、エレティナを迎えてくれる明るい笑み。




雨上がりの庭園。




透明な雨の雫に彩られた、鮮緑の芝生と真紅の薔薇の花びら。




爽やかな柑橘の香り。




庭を駆けて汗ばんだ肌を撫でる優しい風。




振り向いて笑う大好きなひとの顔。







「ーーーーーレイモンド!!」







エレティナは小さく叫び、ベランダへ駆け出た。






そこには。







「…………エレティナ……」







掠れた声で名を呼ぶ、愛しい面影。






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